"あぁーっ!もうっ!何でこんなに混んでるのよーっ!"
いつもの時間、いつもの電車に乗った奈々は、いつも以上に混雑している車内に嫌気がさしていた。
『あぁっ…すみませんっ!出ます!すみませんっ!』
いつもの駅に到着。混雑しているせいで、背の低い奈々には、前が壁に見えてしまう…。
"あぁ…。イライラする…。"
『あぁーっ!もうっ!出るって言ってんでしょーっ!』
つい…嫌気を通り越して怒りになってしまっていた。
"!?"
その時、奈々の腕を一人の男が引っ張り、奈々を車外へと引き出した。
"あれ…!?"
奈々がふと顔を見上げると…。
『…たっくよ。お前は小っこいくせに、ホント度胸だけはでっけぇーんだから。』
『うるさいなーっ!』
『誰のお陰で出れたのかな?礼の一言は?』
『もぅ…ありがとうございますぅ!』
奈々は、そう言うと、足早にその場を後にしようとしたが…。
『おい!ちょっと待てよ!』
"誰が待ってやるもんかっ!"
そもそも、奈々が話していた相手が誰かというと…。
小・中学校の時の先輩であり、この春就職した先に、偶然いたのだった。 そして、何故、奈々が先輩ともあろう男にあんな態度を取れるのか…。
それは、兄の友達であって……。
昔、色々痛い目にあったからだった。
『ちょっと!なんでついてくんのよ!』
『なんでって言われたってなぁ…。同じところで働いてるんだからしょうがないだろ。』
『しょうがないじゃないわよ!違う道から行けばいいでしょ!』
『この道が一番近いんだよ!』
『そんなの知ってるわよ!だから、あんたは遠回りすればいいでしょ!』
『俺はあんたって名前じゃない!ちゃんと高志って名前があるんだよ!』
『あんたなんか、あんたで十分よ!』
『おいっ!ちょっと待てよ!なんでそうやって俺のこと避けるんだよ?』
『いちいちうるさいわよ!避けてなんかないってば!』
"ぐいっ…。"
その時、高志が奈々の腕を掴み引っ張った。
『何すんの…あぁっ!』
『何すんのじゃないだろ?ちゃんと前向いて歩け?』
高志は、前から来ていた車に、奈々が引かれそうだと気が付き、腕を引っ張った。
『何よ?あんたがついてくるからいけないんでしょ!』
『まぁだ言…う…』
重なるように奈々が…。
『でも、ありがと…』
微に聞こえる声で言った。
『ったく、素直じゃねえんだから…。』
『なんか言った?』
『いいえ〜。なんでもございません。あぁっ、そうだ!』
『何よ?』
『いや、奈々、今日の夜ってなんか予定は?』
『何よ?あるわけないじゃない…。』
『ん〜。よし!なら、今日19時に駅で待ち合わせな!じゃぁ後でな〜!』
『あぁ!ちょっと待ってよ〜!』
『なんだよ?ついてくんなって言ったの奈々だろ?じゃぁ、19時な!』
『………もう。』
"全く…人の気も知らないで……。"
そんなこんなで、奈々にとっての激動の1日が始まった。
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